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横浜地方裁判所小田原支部 昭和48年(ワ)59号 判決

原告

柴田浩士

被告

有限会社能登谷産業

ほか一名

主文

被告らは原告に対し各自金六一万七六五八円及びこれに対する昭和四八年三月一三日より右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

この判決は第一項に限り、原告において各被告らに対し各金二〇万円を担保に供するときは、仮にこれを執行することができる。

事実

第一当事者の申立

(原告)

被告らは原告に対して各自金九一四万二三八九円及びこれに対する昭和四八年三月一三日より右支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(被告ら)

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二(原告)請求原因

一  原告は、昭和四七年四月一日午後五時頃神奈川県足柄上郡山北町都夫良野七四番地附近の道路を、小型乗用自動車(相模五五さ三六六〇)に乗車して、御殿場方面から松田方面に向けて進行していた。一方訴外盛義は、大型ダンプ自動車(相模一一な三一七)に乗つて、松田方面から御殿場方面に向つて進行していたが、同地点附近は偶々道路舗装工事のため片側交互通行実施中であつたから、満木は反対車線を車両が進行中は、信号によつて停止している車の後で待機しているべきであるのに、信号を無視して先行車を追い越しセンターラインを越えて、反対車線に入つて進行し、且つ前方注視義務を怠つたため、折柄信号に従つて進行してきた原告の車に正面衝突し、その結果原告に前頭部挫傷、両側膝蓋骨複雑骨折、両側膝関節拘縮の傷害を負わせた。

二  訴外満木は被告有限会社に雇用され、本件事故はその業務に従事中に起きた事故で、右訴外人の乗つていた前記車両は被告有限会社の所有であつた。また被告能登谷は被告有限会社に代つて訴外満木の業務の執行を監督する地位にあつたものである。従つて、被告有限会社は人身損害については自動車損害賠償保障法三条、また物損については民法七一五条により、被告能登谷は民法七一五条により、夫々原告に対して本件交通事故による損害を賠償する責任がある。

三  原告は、右事故のため昭和四七年四月一日から一〇日まで県立足柄上病院に、同月二日から同年七月二七日まで伊勢原協同病院に、同月二八日から同年一〇月二八日まで国立塩原温泉病院に夫々入院し、同月二九日から同年一二月一五日まで伊勢原協同病院に通院したが、両足膝関節が六五度しか曲らず、正座やあぐらを組むことができず、トイレも洋式しか使えないし、階段の昇り降りにも困難を感ずる状態で、趣味のスポーツを楽しむことは勿論、日常生活にも支障を来たす状況で、その後遺症の状態は自動車損害賠償保障法施行令に基づく後遺傷害等級一一級に該当する。

右のような後遺症のため、原告は自動車を使用して仕事を遂行することができないため、公私共に肉体的並びに精神的に大きな損害を受けている。

四  積極的損害

(一) 入院費治療費 金八〇万七三二八円

交通費 金七万四四一〇円

付添費 金一万三二〇〇円

(一日金一二〇〇円として一一日間)

諸雑費 金六万三〇〇〇円

(一日金三〇〇円として二一〇日間)

(二) 自動車 金四五万円

メガネ 金七〇〇〇円

時計 金三五〇〇円

ズボン 金四〇〇〇円

五 消極的損害

(一)  休業損害 金一三四万三二五一円

(昭和四七年一月から三月までの事故前の平均月収金一九万一八九三円を、同年四月から一〇月までの七ケ月分)

(二)  逸失利益 金七三四万二七八五円

(事故時の年令三八才、稼働年数二五年間、労動能力喪失率二〇%として年五分の利息を控除した係数一五・九四四を掛ける)

六 慰謝料 金二〇〇万円

七 損害のてん補

被告有限会社よりの受領分 金四五万円(車両損害金として)

自賠責保険分 金一八万一〇〇〇円

労災保険分 金二五八万四〇八五円

預り金 金一〇万円

八 弁護士費用 金三五万円

九 右の四項ないし六、八項の合計額から七項の金額を差引いた額は金九一四万三三八九円であるから、原告は被告らに対して右金員並びにこれに対する訴状送達の翌日である昭和四八年三月一三日より民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三(被告)答弁

一(一) 原告の請求原因事実一項中、原告主張の日時場所において、加害車両が道路工事中の箇所を反対車線に進入して被害車両と衝突し、原告が受傷した事実は認めるが、原告の受傷の部位程度は不知、その余は否認する。

(二)  同二項中、加害車両が被告有限会社の所有であること、満木が被告有限会社の使用人であつて、本件事故は業務執行中であつたことは、いずれも認めるが、その余は否認する。

(三)  同三項は不知(但し、後遺症の等級は争う。)

(四)  同四項ないし六項及び八項は争う。同七項は認める。(但し、金四五万円は被告能登谷が物損に対して支払つたものである。)

三 被告の主張

(一)  本件事故に関し、昭和四七年四月一日より同年一二月一六日までの全治療費は、既に支払済みである。即ち、

(1) 昭和四七年四月一日より同月一〇日まで、足柄上病院における入院、治療費金一八万二六九〇円

(右金額は同病院入院、治療費の自由診療費であるが、これは被告が同病院に支払つた後、強制保険金から被告が回収したもの)

(2) 同年四月一一日以降同年七月二七日までの伊勢原協同病院における一〇八日間の入院治療費 金三九万八四三六円

(3) 同年七月二八日以降同年八月三一日までの三四日分の塩原温泉病院における入院治療費 金一一万五二四〇円

(4) 同年九月一日以降同年一〇月二八日までの五八日分の塩原温泉病院における入院治療費 金一八万六一五〇円

(5) 同年一〇月三〇日以降同月三一日までの二日分の伊勢原協同病院の治療費 金四〇一三円

(6) 同年一一月一日以降同月三〇日まで同病院における実通院日数二一日分の治療費 金一万三〇四六円

(7) 同年一二月一日以降同月一六日までの同病院における実通院日数六日分の治療費 金四一九九円

(右(2)ないし(7)の金額は、前記各病院が、労働災害保険金として平塚労働基準監督署長を経由して神奈川労働基準局長から受領している。)

(8) 以上の合計額は金八八万六二二九円であつて、治療費関係については、すべて支払いは完了している。

(二)  休業損害について

原告は本件事故の平均収入額の基礎を昭和四七年二月ないし四月として算定しているが、本件事故の発生は昭和四七年四月一日であるから、同年一月から三月までの平均収入額を基礎とすべきである。さらに原告は同四月分の給料を既に受領している。

(三)  逸失利益について

原告の後遺症状は、自動車損害賠償保障法施行令に基づく一四級一〇号である。

(四)  慰藉料について

原告の入院日数並びに右後遺症の等級によれば、原告主張の慰藉料は過大である。

第四証拠〔略〕

理由

第一  原告主張の日時場所において、加害車両が道路工事中の箇所を反対車線に進入して被害車両と衝突し、原告が受傷したことは、当事者間に争いのないところである。

〔証拠略〕及びその方式並びに趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので、〔証拠略〕によれば、本件事故現場は偶々道路舗装工事のために片側通行を実施中で、信号により交互に通行をはかつていたこと、満木は大型ダンプカーに乗つて本件現場附近道路を松田方面から御殿場方面に向けて進行し、その車線はその時信号によつて一時停止となり、先行の多数の車両が信号に従つて列をなして停止していた上、現場附近の道路は蛇行して前方の見通しがきわめて悪い状態であつたこと、ところが満木は先行車両の後方で停止することなく、これを追い越してセンターラインを割り反対車線に侵入して時速約四〇キロ位で進行したため、折柄信号に従つて時速約四〇キロで進行して来た原告の車を、見通不良の状況と相まつて発見が遅れ、互にブレーキを掛けたが間に合わず、正面衝突してしまつたこと、その結果原告は前頭部挫傷、両側膝蓋骨複雑骨折、両側膝関節拘縮の傷害を負つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、本件事故の発生は、右満木の信号無視して見通しのきわめて悪い道路を無謀に対向車線に侵入した一方的な過失によるものであることは明白である。

第二  右満木が被告会社に雇用され、その業務に従事中に本件事故を起したもので、同人の乗車していた車が被告会社の所有であることは、当事者間に争いのないところである。従つて、被告有限会社は、人身損害については自賠法三条により、また物損については民法七一五条によつて、賠償をなすべき責任を負つているものというべきである。

さらに、被告能登谷が被告会社の代表者であること並びに被告有限会社はきわめて小規範の個人会社的なものであることは、〔証拠略〕から明らかであるので、そのような会社においては、その従業員に対して会社の代表者が、会社に代つて事業の執行を監督する責務を負うべき立場にあつたことは十分肯首しうるところである。従つて、被告能登谷は本件事故について民法七一五条二項により監督者として、原告に対し、その損害を賠償すべき地位にあるものというべきである。

第三  原告が右事故により昭和四七年四月一日から同月一〇日まで県立病院に、同月一一日から同年七月二七日まで伊勢原協同病院に、同月二八日から同年一〇月二八日まで国立塩原温泉病院に夫々入院し、同月二九日から同年一二月一五日まで伊勢原協同病院に通院したことについては、〔証拠略〕から被告において明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

そこで原告は、後遺症が自動車損害賠償保障法施行法に基づく等級が一一級である旨主張し、これに沿う、〔証拠略〕が存するけれども、〔証拠略〕によれば、原告の後遺症は顔面に醜状を残したことと膝関節に左右共運動領域が一一五度可動ということで、当初は右両者を綜合して一一級ということになつたのであるが、その後、後者については後遺障害として認められるのは標準運動領域最高一四五度の四分の三の一〇八度以下の場合に該当するとなすべきところを、誤つて認定したことが判明し、原告の場合は後遺障害としては前者のみであるから、一四級一〇号であると訂正されたものであることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

第四  積極的損害について

一  入院費、治療費について、〔証拠略〕によれば、合計金八〇万七二二八円であることは明白である。

二  諸雑費については、原告が昭和四七年四月一日から同年一二月二八日まで入院していたことは前記のとおりであり、その間入院に際して必要な諸雑費がかかつたであろうことは、特に立証がないけれども、社会通念上認められるところであるし、その一日の費用の額が金三〇〇円を必要とすることも妥当と考えられるので、原告の主張する合計金六万三〇〇〇円は、本件事故について相当因果関係にあるものとして損害と認定できる。

三  しかし、原告主張の交通費、付添費については、本件全証拠によつてもこれらを認めることはできない。

四  メガネ、時計並びにズボン等の物損については、何らの立証もないので、これを認めることはできない。しかし自動車が破損したことは〔証拠略〕により明らかであり、さらに被告能登谷は物損について金四五万円を支払つた旨自認しているので、〔証拠略〕から被告において自動車の損害額が金四五万円であることを認めて明らかに争わないものと見られるので被告においてこれを自白したものとみなす。

第五  消極的損害

一  休業損害については、〔証拠略〕によれば、昭和四七年七月一二日付の休業損害証明によれば、昭和四七年二月ないし四月分の月給を受領したような記載になつているが、右給料の支給は先月分を翌月に支給された趣旨であること並びに本件事故前三ケ月の平均給与額は、昭和四七年一月分は金一七万七二四〇円、同年二月分は金一九万六一四〇円、同年三月分は金二〇万二三〇〇円であるから、右三ケ月の平均は金一九万一八九三円であることが認められ、従つて〔証拠略〕は必ずしも右認定に反するものとは考えられない。

そうすると入院中の約七ケ月間の得べかりし利益は、金一三四万三二五一円となる。

次に、逸失利益については、〔証拠略〕によれば、原告が事故当時三八才であることは明らかであり、同人の後遺症の状態が一四級一〇号であることは前記のとおりであるから、その労働能力喪失は、二年間五%減じたものと考えるべきである。従つて逸失利益は金二一万九二六四円となる。

第六  慰藉料

原告は、本件事故によつて前記の傷害を受け、二一一日間の入院と一三日間の通院を余儀なくされたこと、さらに前記認定のとおりの一四級一〇号の後遺症と、後遺障害の等級に認定されなかつたとはいえ、左右の膝関節の不全等の傷害を受けたことによりその精神的損害を仮に金銭に見積るとすれば、金一〇〇万円が相当と考える。

第七  なお、本件事故について被告らにおいて原告の物損に対して金四五万円、自賠責保険として金一八万一〇〇〇円、労災保険金二五八万四〇八五円並びにその他金一〇万円を夫々本件事故における損害賠償として原告が受領していることは、当事者間に争いのないところである。

第八  そうすると原告の損害の合計額は金三八八万二七四三円であるところ、その内金三三一万五〇八五円の範囲で既に賠償されたもので、その残額は金五六万七六五八円ということになる。

第九  弁護士費用

交通事故のように困難な事件については、弁護士費用は通常生ずべき損害であると考えられるので、右認定の認容額その他を考慮に入れて、その費用額は金五万円が相当であると認める。

第一〇  以上のとおりであるから、被告らは原告に対して金六一万七六五八円並びにこれに対する訴状送達の翌日であること本件記録上明らかな昭和四八年三月一三日より右完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は、正当としてこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条本文を、仮執行の宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安岡喜夫)

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